12月5日(木)
たまには、北海道新聞の連載から。
1月26日付、夕刊より。
若いカップルが冬のニューヨークにやって来る。
1962年1月のことだ。
女性は、カリフォルニア育ちで、初めてのニューヨークに、初めてみる雪に興奮を隠せない。
二人は、夏服のままホテルを出て散歩に。
余りの寒さに耐えかね、教会で身体を温めながら、カリフォルニアの輝く太陽と青い空に思いを馳せる。
二人はその後結婚、友人たちと組んだママス&パパスで一世を風靡する。
1965年、そのデビュー曲が、この冬の思い出を綴る「夢のカリフォルニア」だ。
「木の葉は枯れて、空はどんよりと暗い。こんな冬の日は、カリフォルニアの夢をみよう」と歌う。
軽やかなフォーク・ロックが、カリフォルニアの風景を目の前に運ぶような曲だが、
それが、全く異なるアレンジで甦った。
歌っているのはダイアナ・クラール、カナダ出身の人気女性ジャズ・シンガーだ。
美貌でも知られ、エルヴィス・コステロ夫人でもある。
彼女は、新作『ウォールフラワー』の中で、ストリングスをバックに静かに歌い始める。
すると、歌は、ジャズの垣根を越え、
50年以上も前のニューヨークに主人公たちを引き戻すのだ。
ただし、
舞台は同じでも、コートの襟を立て、肩を寄せ合って歩く二人には、
人生の季節をきちんと重ねてきた人たちならではの物語が寄り添い、それがなんとも素晴らしい。
「夢のカリフォルニア」以外にも、
イーグルスの「ならず者」やギルバート・オサリバンの「アローン・アゲイン」等々、
60年代、70年代を彩った歌の数々が、何処にもなかった趣で奏でられる。
アルバムの表題作は、ボブ・ディランの古い曲で、
お馴染みの曲に混じって、
ポール・マッカートニーの新曲が加わるという優雅さも、この静けさの中にはある。
(音楽評論家 天辰保文)